4月の第3日曜日、野川地域センターで練習をしているダンス・サークルの合同パーティーがありました。 少し遅れて会場に入ったので壁に寄り掛かり様子を眺めていると、総じて老男老女の中に一人、ひときわ若い黒スーツの女がいるのに気付きました。目で追っていたので女もそれを感じたのでしょう、「踊って頂けますか」と声をかけてきました。女の方から誘われるなんて俺もまんざらでもない。ちょうど、クンパルシータがかかったところなのです。 「いいですよ」 あまり喜んで軽く見られないよう鷹揚に答え、フロアに出て彼女を俺のホールドの中に包みました。踊り始めると、この人の動きの軽いこと、身体が柔らかく寄り添ってくる。 俺のダンスはいつも、1曲の終わりまでゆく前にどこかでステップを間違えてしまい立ち往生、「失礼」とささやき、もう一度ウオーク・ウオークから始めることになるのに、この時はそんなこともなくずっと踊り続けることが出来てしまいました。当たり前のような顔をしてはいましたが、どうもそれが、俺のステップの乱れるたびに彼女が臨機応変にきちっとついてきてくれ、さり気なく俺をリードし、立て直してくれたせいらしいのには、薄々感づいていました。 「なにさ、下手くそ」という態度の人も居るのに、やはり女は優しくなければ、ねえ。 クンパルシータが終わりホールドを解くと、彼女は「有難う御座いました」という。それは俺の台詞かなぁ、とも思ったのですが、この際格好を付けようと「貴女も、結構お上手ですね、どこのサークルですか?」と聞きました。すると「今日は、呼ばれて踊りにきたのです」と答える。 なんか要領を得ない返事だけれどまぁいいや、友達がどこかのサークルに居るということなのだろう、と察し、今度ジルバが掛かったらこっちから誘おう、あれならステップに苦労することはなく相手を踊らせることができるからなぁ、と狙っていたのに、音楽が変わるといつのまにかその女は消えていたのでした。 パーティーもたけなわになり、めったに見られない今日の呼び物だというA級プロによるデモンストレーション。その男女が出てきたのを見て驚きました。肌もあらわな真紅の衣装に着替えて野生的な印象になってはいるが、女はさっきの「結構お上手」女じゃないの。 その踊りの凄いことといったら、我々がレッスンをいくら極めても辿り着かないであろう、質のまったく違う踊りに見えます。4曲のデモが終わると、司会者に促され、彼女はこんな風に感想を話しました。 「先程は、何人かの方に踊って頂きましたが『結構お上手』だと誉められ、とても楽しく過ごしました。今度は狛江の方にも『結構』でなく『とても』お上手と言われるよう、練習を重ねたいと思います」。 H20/4/20 |